雪の街の愉快な奴ら
〜第二話 未知を求めての出会い!?〜





「ふう、いい天気だな」

水瀬家に到着したその翌日この俺、折原浩平は昼飯を食った後、
青空の下を歩いていた。
実は今日水瀬家に俺達の荷物が届く手はずになっている.
だが当然それまでに戻る気などさらさらない。その辺で時間を潰して戻れば
帰る頃にはきっとおれの荷物も運び終わっているだろう。(というか運び終わる頃を
見計らって帰るつもりだ)

「さて、どーするかな」

時刻は既に昼下がり、今が春休みということもありこの時間帯でも
人通りはわりとある。商店街に行ってもいいがこれから帰り道などで
行く機会があるだろうから却下だ。
せっかく一人なのだからもっと別のところに行くべきだ。
俺はそう決めると未知を求めてとりあえずすぐ傍にあった横道に
入った。





「ここはどこだ?」

誰も尋ねる人間も居ないのに俺はそんなことを言った。
なんとなく歩いていると見知らぬ公園にたどり着いていたのだ。
まあ基本的に見知らぬ道に入れば見知らぬ場所に出る、当然の事だ。
とゆーわけでさっきの疑問はすっぱりと忘れる。
ちなみに公園と言っても遊具などがある公園ではなくくつろいだり散歩
したりするのが目的となる公園である。
真ん中にある噴水がなんだかお洒落だ。

「ん、あれは…?」

よく見ると噴水をはさんでちょうどこちらと正反対の位置に誰か居るのが
みえる。
近寄ってみるとどうやら2人の女の子のようだ。
見た目がどことなく似てるから多分姉妹だろう。片方がスケッチブックを
片手に持っているところからどうやら絵をかいてるらしい。
ということはもう一人のほうはモデルだな、じっとしてて動かないし。
特にする事も無いので俺はその2人から少し離れたベンチに座り
彼女等を見守ることにした。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「ところでそこの人、何か用かしら?」
「ほえっ!?」

いきなり掛けられた声に俺は素っ頓狂な声をあげる。 いかん、どーも寝ていたらしい、
どうやら俺がずっと見ていたのに気付いていたらしい。
つっても途中から寝てたんだが。
絵はもう描き終わったのだろう、姉(だろう、スタイルやら雰囲気やら
からして間違いない)の方が先程までのポーズを崩して俺の方を見ている。
一方妹の方は気付いていなかったらしく驚いた表情をしてこちらを
見ている。
むう、いかん、なんだか警戒されているようだ。
ここはひとつフレンドリィにあいさつをしてみよう。

「ハロゥ♪ 君達はこの辺りの人かい? ここには初めて来たんだけど良い
所だねぇ」

………ぐあっ、ぜんぜんフレンドリィじゃねぇ。
その上なんだ最初の「ハロゥ」ってのは?これじゃまるっきり変な人だ。

「ナンパかしら?」

だが姉の方はそんなあやしい(自分でやっといてなんだが)振るまいに
突き放すような口調で訊き返してくる。(もしかしたら本当にこんな風に
ナンパされたことがあるのかもしれない)
並の男ならこれだけですごすごと帰っていってしまうようなきつい口調だ。
だが俺はこの程度ではへこたれては見送ってくれた故郷のやつらに合わす顔が無くなる。
そして俺は態度を崩さずその質問に正直に答える。

「違うぞ、単に一人で寂しくて暇だから見てただけだ」
「そういう人がナンパするんじゃないのかしら?」

だが変らず厳しい言葉を返してくれる姉。なかなか手ごわい。
確かにナンパというものは普通は寂しい奴(つまりは恋人がいない
よーな奴)がめぼしい女の子に声をかけて何かに誘うものだ。
だが

「いわん」

おれはキッパリと否定する。

「なぜならお前達が男でも俺は見ていたからだ」

そういう切り返しは予想してなかったのだろう。俺がそう言うと姉の方は
少しきょとんとして、そしておかしそうにかすかに笑った。
おお、なんか笑った顔、かわいいもんだな。
そんな事を思っていると妹のほうはしばし考え込む素振りを見せた後、
ひらめいたようにパン、と手を叩き口を開く。

「なるほど、つまりりょうとう…」

スパァンッ

妹の言葉を皆まで言わせず姉が妹の頭をはたいて途中で黙らせる。
あのタイミングでつっこみをいれるとは…なかなかのスピードだ。
この女、知的な風貌をしているが相当つっこみ慣れてるに違いない。

「不穏当な発言は止めなさい」
「えう〜、冗談のわからないお姉ちゃん、嫌いです〜」
「気色の悪い冗談は止めれ」

先を越されてしまったが俺も先程の冗談に抗議をあげる。きっぱりと
俺にそんな趣味は無い。女の子と付き合った事も無いんだが…。

「ったく、引っ越してきたばっかでろくに知り合いもいないから
うろちょろしててたまたまあんたらを見つけただけだ。ナンパする気
なんざないぞ」
「へー、そうなんですか?」

俺の言葉に妹の方が興味深そうにこちらをみる。

「そんなに他所者が珍しいのか? 日本にまだそんな閉鎖的な場所があったとは・・・」
「ちがいますよ」

少女は苦笑しながら俺の言葉を否定する。

「暇だったらモデルでもしてくれませんか?」
「もでる?」

初めて会ったと言うのにそのえらく人懐こい態度に多少戸惑いながら訊き返す。

「ええ、モデルになってくれる人、中々いないんです」

なるほど、確かにモデルなんてひまそーなことこの上ない、わざわざ
引き受ける奴がすくないのも当然だろう。

「よし、ならばこの俺の美男子振りを後世に伝えるならば描かれて
やってもかまわんぞ」
「はーい、任せて下さい。これでもけっこう絵はうまくなったんですよ」

うむ、元気の良い返事だ。
…とそういえば自己紹介してなかったな。

「俺は折原浩平、今をときめく美男子な高校二年生だ」
「私は美坂栞です、高校一年です。でこっちがお姉ちゃんの…」
「美坂香里よ。貴方と同じ、二年よ」
「わかった美坂妹に美坂姉だな」

互いの自己紹介を終える。
とゆーかこいつら俺のボケ、キレイに無視しやがったな。
……なんかさみしい

「ちょっと」
「ん?」

だがおれのさびしさなど知るよしもなく美坂姉は不機嫌っぽい口調だ。
なにか不満があったろうか?

「もっとましな呼び方はできないのかしら」
「気に入らないのか? よくわかる呼び方だと思うのだが」
「・・・・・・・あたしのことは香理って呼んでくれれば良いから」
「私も栞でいいですよ」

おお、名前で呼んでいいのか。なんか親密度がアップした感じだな。
こっちもちゃんとそれに応えなくては。

「じゃあ俺のことも浩平と呼んでくれ」
「遠慮しとくわ」
「そ、そうか」

俺の応えはあっさりと拒否された。
ちょっと悲しい。

「あ、私は浩平さんって呼びますね」

だが栞の方は笑顔で俺の名前を呼んでくれる。
かなりうれしいぞ。さっきの悲しみもあっさりと上回る。
よし、お礼にちゃんとモデルの役目を全うしよう。おれはそう決意する。

「で、モデルとして一肌脱いでやるのはいいがなにすればいい?」

そう言うと栞はチョット考え込むそぶりを見せる。

「そうですね…では、まず脱いで下さい」
「おうっ!」

俺は栞に答え勢い良く返事をすると手早く服を脱ぎ始める。

「ちょっと待ちなさい!!」

香里が即座に抗議の声をあげる。
だが伊達に遅刻すれすれでの着替えを日常の一部分として
取りこんでいない。
もともと二枚服を着ていたがすでに俺はその二枚目に手をかけた
状態で香里のほうを見る。

「どうした香里? 俺の脱ぎ方に何か不服でもあるのか」
「いえそうじゃなくて」
「もしかしてもっとゆっくりと焦らすようにぬいでほしいのか?
『ちょっとだけよ〜ん(はあと)』みたいに。リクエストするなら
そういうふうにやりなおしてやるが」
「違うわよっ!!」

やり直しの為に服を着直す俺に香里が力をこめて突っ込んでくる。

「じゃあ某主人公みたいに筋肉を膨張させて服を破れって言うのか。
さすがにそれはちょいと無理…」
「そうじゃなくって、なんで服を脱ぐのよ」
「「モデルといえばヌードだろう(でしょう」」」

おれと栞の声がみごとにハモる。
うむ、こっちはよくわかっているようだ。

「俺の姿を残すにはやはりそれに相応しいせくしぃなポーズをとらな
ければならんのだ」
「それと服を脱ぐのとどういう関係があるのよ?」
「じゃあ香里は服を脱がずにせくしぃポ−ズをとれと言うのか」
「そうですよ、だからお姉ちゃんも脱いで下さい」
「だからどうして……」
「さあ栞、あの星に誓おう。俺達がいずれ絵画の歴史を塗り替える事を」
「はい、そのために私も頑張ります。お姉ちゃんもきっと…」
「人の話を聞きなさい」

太陽(これも星だ)に向けて誓いを立てる俺達に香里がいらついたように
文句をつけてくる。

「やれやれ、冗談のわからん奴だな、なあ栞」
「まったくです」
「あんたらね…」

肩をすくめて笑い合う俺達に香里はなんだか怒り気味だ。

「きっとカルシウムが足りないんだな」

そんな様子を見て俺は同情を込めてそう呟く

「そうですね。お姉ちゃん、アイス食べないんです」

栞、それは違うと思うぞ……。たしかにアイスは牛乳から造られとるが…
…あ、なんか香里もフルフルと拳を震わせてるしこれ以上からかうと命に
関わると俺の第七感(いいかげん第六感だけでは生き残れなくなってきた
ので最近開花した)が訴えているのでこの辺でやめておこう。

「で、具体的にはどんなポーズでいくんだ?」
「えーとですね、お姉ちゃんと浩平さんで噴水のふちに座って下さい。
ポーズは左右対称になるようにして………」

すでに決めていたのか栞は俺のとっさな話題の切り替えに先程までの
やりとりなどなかったかのようにすらすらと説明し始める。

香里もこうされると怒りのやり場がなくなったらしく落ち着いて栞の
指示通りにポーズをとる。






それから三十分近く、俺と香里は噴水の前でほとんどおなじポーズを
固定したままじっとしていた。(ほとんどというのは栞が大きく
ポーズを崩さないのなら動いても良いと言ったからだ)
その栞は「うー」とか「むー」とかいいながらペンを動かしている。
しかしわかっちゃいたが苦痛だなこりゃ。ほとんど動けずにずっと
じっとしてるだけ、暇さもあわさって効果は倍増だ。
ふとそこで思いつく、この場で暇にしてるのは俺だけじゃないのだ。

「なあ、香里」
「何かしら?」

さっきからかったせいだろう、かなり警戒の篭った返事を返される。

「暇だな」
「そうね……でも」
「でも?」
「悪くはないわよ」

本当にそう思っているのだろう、香里の顔には多少疲れたような
感じはするがそれ以上にこの時間に充実を感じているように見えた。

……………………

あれ? なんか香里と同じような感じをした奴を知ってる気がする
のだが……だれだったかな?

思い出せん。
思い出せそうなんだがその肝心の誰かがぼやけてる。
知らない人間じゃないのはたしかなんだが…。

ま、思い出せないもんはしゃーない。
なんだか関西弁口調になりながら自己完結。

「でも俺は暇だ。とゆーわけでしりとりでもしないか?」
「唐突ね」
「動かずにできる暇つぶしなんてこんなもんだろ。」
「ふうん……ま、たまにはいいかもしれないわね。じゃあ時間は
栞が完成するまで。その時点で順番が回っていた方の負け、で
いいわね」
「うし、のぞむところだ。それじゃ最初は……」

香里の了解を得て俺は最初の単語を考える。

「んじゃ…美坂の『か』でどうだ?」
「いいわよ、じゃ、かめ」
「ん、めだか」
「柿」「近代化」「カラス」「スイカ」「火事」「時差」



…………………(長々と続くので略)



「やまんば」「ババロア」「アミューズメントパーク」「クロスカウンター」

あれから更に一時間、しりとりはまだ続いていた。
しかし流石にそれだけしてると出せる単語も減ってきて、そろそろ苦しく
なり始めている。

「た、ね。じゃあ『タロイモ』」

く、香里のやつめ、どうしてこう知っているのに思いつけない単語を
さらりと言える?
内心悔しがりながらも俺はものつく単語を思い巡らす。
だが思いつくものは言ったか言われたものばかり。

「………ぬう」

今俺は表情だけで目一杯困ってる様子をつくってるに違いない。
その証拠に隣を見ると香里がこれまた楽しそうな表情をしながら
見ている。
なんか更に悔しくなってきたな。さっきからこの状況何回繰り返した?

「桃、喪服、文字……うーん全部言っ「できましたぁ♪」

俺の思考は栞の声で遮られた。

「お姉ちゃんたち、もう動いても良いですよ〜」
「あたしの勝ちね」
「く…」

何か言い返したかったが敗北は敗北、言える事は一つしかない。

「だが安心するのはまだ早い。たとえこの俺を倒してもいずれ再び……」
「はいはい、もういいから」

俺の捨て台詞はあっさりと流された。やっぱりやるな。

「何話してるんです?」

いつの間にか近くまで来ていた栞がこっちを不思議そうに見ている。

「いやなんでもない。それより栞、描いた絵見せてくれ」
「やです、はずかしいです」
「やですといわれて引き下がるか、見せろっ」

栞はスケッチブックをかばうようにして逃げようとしたが簡単に捕まえられた。
あっさりとスケッチブックを取り上げると俺は描かれた絵をじっくりと見る。

「うーむ、40点だな」
「何点満点ですか?」

栞ももう諦めたらしく隣で俺の感想に耳を傾けている。
ちなみに反対側からは俺と同じように香里が絵をのぞきこんでいる。
絵は正直言って…あんま上手くは無かった。
上達したとか言ってたが上達してこれだと前はどんなだったんだ?
まあ下手というほどでもないんだが。

「100点満点だ。だから赤点すれすれってとこだな」
「ま、そんなところかしらね」
「えうー、二人とも厳しいです」
「俺は辛口なんだ」
「辛いなんて言う人嫌いですー」

もしかしてこいつ、甘党か?
そんなどうでもいいことが頭をよぎる。

「一応言っとくが絵だけなら30点だぞ」
「残りの10点はなんですか?」
「モデルがいいからだ」
「あっさりと言いますね、自分のことなのに」
「ふ、それが大人ってもんよ」
「なんか訳がわかんないですけど」

栞がなにやら半眼で俺を見ているが気にしない。

「ちなみに俺と香里で5点ずつ、合計プラス10点だ」
「私と折原君は同じ点数なのかしら?」

香里、なんか不服そうだな。

「……しょうがない、俺が4点で香里が6点ということにしておこう」
「随分けちくさいわね」

ぬう、わがままな奴だな。

「お姉ちゃん、アイス食べに行きましょうよー」

だが栞にとってはそんなことはもうどうでもらいいらしく香里の
腕を引く。

「はいはい、そうね」

香里もそんな栞に優しい表情をむける。

「折原君も来る? 来たばっかりなんでしょ?
おいしい店、教えてあげるわよ」
「お、ありがたい。甘いもんは好きでな」

俺がありがたくその申し出を受けると香里は意外そうな顔をする。

「あら、そうなの? 男の子って甘い物ってそれほど好きじゃない
と思ってたんだけど」
「一般的にはそうかもしれんがおれは好きだぞ」

勿論限度はある。
山葉堂のとあるワッフルなんかはおもくそその限度を越えている。

「とくにあっちではクレープがうまかったなあ」

その忌まわしい記憶は過去へ置いといてとりあえずかなり好きだった
ものの話をはじめながら歩き出した。。





「ですからアイスは暖かい時に食べるのがおいしいというのは反論
しません。ですが寒い時だっておいしいものはおいしいんです。
いえ、逆にまた別の情緒のようなものがあり……………」

今俺達は栞の話を聞きながら商店街を歩いていた。
俺のクレープの話から栞のアイスの話へと移りそれが延々と続いている。
何度も香里に視線で助けを求めるがその返事を決まって『諦めなさい』
という視線が返ってくるだけだった。
とゆーか俺達いつのまに視線で会話が可能にまでなったんだ?
と、その時だった。
なんか前から走ってくる少女が叫んでいるのが聞こえたのは。

「うぐぅーそこの人、どいてー」

……どうしよう?
見るとけっこうなスピードで走っている。
しかも表情はなんだか真剣だ。 このままだと完全に正面衝突コースだな


とりあえず言葉通りその場からどいてやることにするか。


一歩前へと


「ええっ!!」

少女は驚きの声をあげながらも俺とぶつかる寸前に横へと跳びのく。
おお、なかなか良い動きするな。
そんなことを思いながら見ていると

ゴチンッ!!

少女は跳んだ先にあった街路樹に見事頭をぶつけた。
そしてそのままぽてっ、と落ちて動かなくなる。
運の無い奴……。
ちなみにもっと運の無い奴なら上から雪とか毛虫とかが落ちてくる
だろうな。
それだったら大笑いだ。

「浩平さんのせいだと思いますけど」

栞がこっちを睨んでくる。
だがちっとも怖くない。

「どいてと言われたからどいただけだろ」
「だからってあの状況で前にどきますか?」

そんな事を言いながら栞は香里と一緒に少女へと駆け寄って行く。

「あゆさん、大丈夫ですか?」

どうも知り合いのようだ。栞がその少女の名らしきものを呼ぶが返事は
無い。すでに屍と化してるようだ。

「自ら頭をぶつけて自殺か。若いのになんてことを」
「ちがうよっ!!」

少女は上体を腹筋運動だけで勢い良く起こして元気良く言い返してくる。
あれだけ勢い良くぶつかったのに…けっこう丈夫だな。

「うぐう、どいてって言ったのに」
「だからどいただろう、前に」

涙目で訴えてくるうぐう少女に向けて俺はすっぱりと言い返す。

「うぐぅ、意味無いよ、それは」
「男は前に進む生き物なんだぞ」
「………………」

どうも何を言い返せばわからないらしく黙りこくるうぐう少女。
後ろに居る美坂姉妹も同じ顔をしてる。
まあこのままだと話が進まなさそうだから起こしてやるか。

「ほら掴まれ」

俺は手を差し出すが少女はそれを掴もうとしない。

「うぐぅ、両手使えない」

たしかに少女は両手に紙袋を一つずつ持っている。
だが俺はその言葉になんだそんなことか、と言わんばかりに首を振ると
解決策を言ってやった。

「羽が生えてるんだから三本目の腕ぐらい生えてるだろ」
「うぐう、羽はリュックについてるし、三本目の手なんてないよ」

俺があまりにも当たり前のように言ったので怒るよりも困ったように
言い返してくる。まあさすがにからかいすぎたか、と多少反省しながらも
俺の口は次の言葉を吐き出していた。

「口があるだろ。それで掴めば良いだろう」

反省の意味無し!!

少女はまた何か言い返そうとして口を開きかけるが、すぐにその顔は
いたずらっぽい笑みを浮かべた。そして

ぱくっ

「なにっ!?」

なんとうぐぅ少女は差し出していた手を咥えたのだ。
血が出るには程遠いがそれなりに力を入れてるようで痛い。
どーしたもんかと下を見ると少女がどこか勝利に満足したような表情を
見せている。
その時俺の脳裏に走ったのはただ一言



負けてなるか!!



俺は即座に噛まれてる指を曲げ少女の口に引っ掛けるような形にすると

「そりゃっ!」

一気に持ち上げた。

ちょうど釣り針で釣り上げられた魚を想像してもらえるといい。

「ふぐぅっ!!」

その際に何かの鳴き声があがるが気にしないでそのままの勢いで少女を
立たせると噛んでいた力も抜けたので口から手を抜く。

「ううう(涙)」

引っ張り上げられた時に痛かったのか少女は涙目になりながら何やら
うめいているが気にしない。これは勝利の証なのだから。

「あゆさん、大丈夫ですか?」
「……うん、大丈夫だよ。かなりびっくりしたけど…」
「そうよかったわ」

栞と香里がその少女を心配して声をかける。
その会話から俺はその少女の認識する、そして

「そうか、お前はあゆというのか」

そして俺はうんうんと頷くと

「ということは俺はあゆを釣ったのか」
「「ぷっ」」

俺のその言葉に美坂姉妹が笑い出す。
おお、なんか知らんがウケてるぞ。
特に香里はツボにはまったらしく腹まで抱えて笑っている。

「うぐう、二人とも笑いすぎ……」

そんな二人様子を見てうぐう少女は頬を膨らませる。

「で、結局なんでまたそんなに急いでたんだ?」

俺はそう尋ねながらうぐう少女を観察する。
両手に抱えた紙袋、そして急に止まれぬほどの全力疾走、答えは簡単
だった。

「あゆさん、また食い逃げしたんですか?」

……栞に先に言われてしまった。
ちなみに香里はまだ笑っている。けっこうツボにはまるタイプなんだな。
それにしてもまたってことは前科ありか。
しばし黙考……………

「よしっ、俺と香里で追っ手をくいとめる。栞はそのうぐうを連れて
逃げろ。合流地点はさっきの公園だ」
「わかりました、まかせてください」

俺の指示に栞は元気良く返事をする。
そして俺は

「うまく逃げ切ったあかつきには獲物は山分けだぞ」

うぐう少女への交渉をする、これが一番大事だ。
だが少女は俺のないすな提案に頬をふくらましている。

「なんでそうなるの!?」
「なにっ、お前、俺達に手伝わせといて儲けを一人占めする気か!?」
「違うでしょっ!」

俺の抗議に香里が口を挟む。
ようやく笑いから復活したようだな。
そしてうぐう少女の両目を正面に据えながら真剣な口調で話し始める。

「月宮さん、お金なら私が貸してあげるから…真剣に謝ればきっと
許してくれるわ」

おれの香理め、ごくまっとうな対応をしやがったな。
栞は乗り気だったというのに…。

「うぐぅ、これ盗んでないよ」

なんかちょっぴり涙目になるうぐう少女、なんか悪い気がしてきたので
そろそろあゆと呼んでやることにする。

「もう春も近いからって屋台の店じまいするんだって。それにあわせて
半額セールやってたからいつもの倍以上買っちゃっただけだよ」

ぬう、半額セールだからいつもより多く買うとは若いのにおばさんじみた
奴だな。きっとあと二十年もすればデパートとかのバーゲンで並み居る
おばちゃん達をあの突進力で蹴散らして行くんだろうな。

「うぐう、ぼくそんなことしないもん」
「人の想像にツッコミをいれるな、せっかく面白いとこなのに」
「これ以上ほっとくとボクがどんな扱いされるかわからないもん」

見事な勘だ。
ちょうど俺の頭の中では暴走突撃するあゆと狂暴化した七瀬が一枚
のブラウスを巡って対決しようとしてるとこだったのに。

「月宮さん、ごめんね。その…ついおもいこんじゃって…」

そんな俺を無視して香里はかなりすまなさそうに謝っている。

「もういいよ、それよりこれ、おすそ分けだよ」

あゆはそう言って俺達に袋から鯛焼きを一匹ずつ渡す。
あんな状態でも手に持った袋の中身を潰さないようにしていたらしい。
これはもう見事と言うしかない。

「うまいな」

俺は一口食べてそう言った。俺のはつぶあんだった。
むう、あんこの甘さといい皮の香ばしさといいかなりうまい。

「こしあんはないのか?」
「うぐぅ、この人なんか図々しい」

あゆはそう言いながらも俺に二匹目を渡してくれる。
かぶりついてみると確かにこしあんだ。
うむ、こっちもうまい。

「じゃあ、ぼくはもう行くね。急がないと鯛焼き、冷めちゃうから」

そう言うとあゆは走り去って行った。

「なんか鯛焼き食べちゃったけど、どうする? また食べると晩御飯、
食べれなくなっちゃうわよ」

香里の懸念に栞は自信満々に言い放つ。

「大丈夫、アイスは別腹ですから」

そんな栞の言葉に香理はため息を吐き俺の方を見る。

「俺も大丈夫だぞ」
「あなたも別腹?」
「いや俺は甘い物だけが別腹なんていう面妖なことはないぞ」
「だれが面妖ですか!!」

栞はきっぱりと無視。

「単によく食べるだけだ」
「なるほどね」

香里はやっぱり栞と同じようにため息を吐くと再び歩き出した。


<続けよう>


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後書きだよ

あゆ「なんか僕達、初対面なのにかなりはじけてるね」
ときな「うっ、ま、まあ栞にしろあゆにしろ人見知りしなさそうだし」
あゆ「だからと言ってあそこまでなれなれしくないよ。これはもう作者が
いいかげんとしか思えないね」
ときな「しくしく、堪忍や〜」
あゆ「まあそれはそれとしてなんか栞ちゃん、この話だと随分とノリいいね」
ときな「ああ、はっきりいって一番動かしやすいな栞は」
あゆ「そうなんだ、ところでどうしてボクが木と激突するの!?
しかも浩平君のせいで・・・たしか君が別で書いたSSでも浩平君の
せいでひどい目に遭ったよね」
ときな「ああ、あれ個人的にはかなり気に入ってな。この際あゆと浩平
出すならやりたいなと思って。本当ならカウンターでキメさせたかった
けどそれだと持ってた鯛焼きが潰れるからな」
あゆ「うぐう、そんな理由・・・・・・」
ときな「そしてゆくゆくはもうお約束にまでしようかと……」
あゆ「それってスパ○ボでゲッ△―が奪われたりジェッ□スクランダーの
ドックキング時に敵が来るみたいな?」
ときな「スクラ×ダーのほうは最近なくなってきてるがそのとおりだ」
あゆ「うう、てことはこれからもあるんだね(涙)」
ときな「まあそう悲観することは無い。ちゃんと毎回ひねりは加えるから」
あゆ「やっぱりあるんだ(滝涙)」
ときな「さてこのうぐぅはほっといて………
これを読んでいる方、つまらない文章ですが次も読んで下さると
嬉しいです」
あゆ「うぐう、これからもぼくこんな役………」(しつこい)



感想その他はときなさんへメール、もしくはBBSなどにどうぞ。



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