雪の街の愉快な奴ら
〜第一話 顔合わせ〜





〜水瀬家〜

水瀬家ではしばらく前から忙しかった。空き部屋の整理や掃除、
そして必要な家具の運び込み等だ。
新しい居候が来るのだ。それも二人。
ちなみに名雪の従兄妹だそうだが父親の兄の子だというので俺とは
血の繋がりは一切ないことになる。
なんでも保護者が俺の両親と同じように仕事で外国に行く事になったから
昔から付き合いある秋子さんがその面倒を引き受けたらしい。
名雪はいまその迎えに行っている。
そしてこの俺、相沢祐一ともう一人の居候である沢渡真琴は秋子さんと
一緒に自己紹介のため名雪が帰ってくるはずの時間に合わせて
リビングに集まったのだが……
時刻は既に4時、名雪の奴はすでに予定より二時間近く経つのにまるで
帰ってこない。

「遅いな」
「そうですね。本当ならとっくに着いてる頃なのに。何してるのかしら」
「あぅー、真琴タイクツだよ〜」

それぞれからこんな言葉がでてくる。
真琴も最初は知らない人間に会うという事で緊張してたようだが流石に
二時間も経つとその糸も切れたらしい。テーブルに頭を突っ伏している。
そこで俺はふと思いついた事を口にする。

「そういえば今日来る人達ってどんな人たちなんですが? 二人という
事しか聞いてないんですけど」
「あらあら、そうだったかしら?」

秋子さんはいつものように頬に手を当てながら笑う。
 
「男の子と女の子が一人ずつで男の子の方は祐一さんと同い年ですよ。
女の子の方はそれより一つ下です」
「へえ、そうなんですか。たのしみだな」

その言葉を聞いて俺は胸を少しだけ躍らせる。
女性ばかりで肩身の狭い俺にとっては男が一人増えるという事は実はかなり
ありがたい。とはいえもう一人は女の子だそうなので人数差は変らないのだが。

「ふふっ、そうですね」

と秋子さんはいつものように、いやいつも以上に嬉しそうに、微笑む。
しばらく前まで名雪と二人暮しだったのだ。家族が増えるのはやはり嬉しいの
だろう。そして秋子さんはその微笑みを少しイタズラっぽいものに変化させる。

「でももしかすると今より大変になるかもしれませんよ」
「? 秋子さん、それはどういう」
「ただいまー」

俺が尋ねようとしたちょうどその時、玄関の開く音と名雪の声が
聞こえてきた。

「おじゃまします」
「おじゃまします」

そしてそれに続くように声が二つ続く。

「あら、ようやく帰ってきたようですね」
「あ、あぅ〜」

真琴はさっきまでの態度はどこへやら、いきなり身を小さくする。

そうしているうちに名雪と共に一組の男女がリビングへ入って来た。
男の方は俺と体格はあまり変らない。顔はいい方に入るだろう。
とりあえず外見的には述べれるようなところはあまり無いように見えた。
そして女の子の方だが腰まで伸ばされたつややかな髪、幼さが残った顔、
間違いなく美少女に分類できる、つーか分類できないといったほうが
正しい。
おまけにそのスタイルはかなり良く、背の低さのおかげで更に強調される。
あゆや真琴のような幼さありながらもえらい違いだ。
兄と似ている部分もあるのだが受ける印象はかなり違う。
だがここで受ける印象は容姿という点はさほど大きくなかった。
何故か二人はボロボロでなおかつげんなりしていた。
ちなみに名雪は服が少々乱れているが至って普通だ。
ただ機嫌はちょっとわるそうだ。

「あらあら、何があったのかしら?」

秋子さんも流石にその様子に対して質問をする。
だが俺はすでにその理由は想像ついている。

「猫だろ」

俺のその一言に名も知らぬ男のが静かに頷いた。

「実は………」

男が話し始める。





名雪達はここ最近の事を話しながら水瀬家への道を歩いていた。
久しぶりに会ったこともあり彼等の話は尽きることが無かった。
そんな時だった、名雪が突如声をあげたのは。

「あ、猫さんだよ〜」

名雪の視線の先には確かに塀の上に猫がいる。
それを見て浩平とみさおはぎょっとした。
名雪との付き合いは長いのでこの少女が猫を見たときの彼女の
行動とパワーは通常時の二倍に跳ね上がる事は良く知っている。

「おいでー、ストロベリー」
「にゃー」

近くにいた飼い主らしい女の子のその声に従い猫はその女の子の下へと
駆け寄って行く。それを浩平とみさおは幸運と見た。
さすがに名雪でも飼い主つきの猫にとびかかったりしないだろう。

「ほー呼べばちゃんと来るのか。よくしつけられているな」

浩平はそう感心すると同時に去って行く猫を見て内心安堵した。
だが悪い事は重なっていたらしい。
横を見ると………
名雪は目の色変えて震えていた。
それを見て二人の頭はいや〜な予感で一杯になった。

「おい、まさか……」
「おにーちゃん、この展開って……」


「ね〜こ〜さ〜んい〜ち〜ご〜!!」


二人の予想(恐れ)通り名雪が大声を出して走り出したのだ

「待ていっ!!」

浩平は慣れた手つきで名雪を捕まえる。
二年前ならそこで引っ張って行って終わった。だが今回は違った。
二年間会ってなかったがせいだろうか、彼女の成長を浩平はその体で
じかに感じた。

(ち、力負けしてる!?)

なんと名雪は浩平に拘束された状態でありながら前進していた。
(ちなみにスピードは普通に歩く程度だ。)
おかげで別の意味で成長した体の感触を感じる余裕はない。

「な、名雪、お前どこからこんなパワーが!?」
「当然だよっ!! 猫さんでイチゴなんだよっ!! イチゴさんで猫なんだよっ!!」
「ええいっ、わけわからん日本語しゃべるな!! イチゴにさんをつけるなっ!!
これだからだおーなんだ!!」
「だおーは関係無いよっ! 放すんだよっ!!」
「そこの人っ、早く逃げて!! 捕まるよ!!」

浩平と名雪が互いによくわからない会話をしている内にみさおが猫と
その飼い主に逃げるよう告げるが彼女等は名雪の最初の叫びですでに
逃げ出していた。
だが安心は出来ない。名雪の足ならこの程度の距離など一気に走破できる。
ましてや今はとんでもないパワー(猫パワーで二倍、イチゴパワーで更に
二倍、つまり通常の四倍くらい)を発揮している。
どこぞの赤い奴よりも更に上回っている。
どんな機動力を見せるか想像も出来ない。
だから浩平はその場にふんばる為さらに力を入れた。





「とゆーわけでその後転んだり、蹴飛ばされたり挙句の果てに川の中に放り
込まれそうになったりしてなんとか名雪を連れて到着しました」

聞き終えた俺は盛大にため息をついた。
ちなみにその理由は名雪の暴走っぷりだけではない。

「なんてーかそのわりには元気だな、お前」

身振り手振りまで加えて元気良く解説してくれた男に思わずそんな言葉がでる。

「ふ、この程度世紀末大怪獣ななぴーと死闘を繰り広げた俺には屁でもない」

そのわりにはぼろぼろだが。てゆーか世紀末大怪獣って……
とりあえずその辺りは無視して

「ストロベリーと名づけられた猫…名雪にとっちゃまさにネギしょったカモだな」
「あらあら、名雪ったら」

俺と秋子さんは同時に呆れの声を出した。

「知らない間に随分とたくましくなっていたのね」

訂正、秋子さんのは呆れではなく感動の
ため息だったようだ。


「うー、だってだって〜」

名雪がすねた声を出すがこっちはなにも言う気にはならない。

「おーいそろそろ自己紹介しないかー? いい加減男と書き表されるのに
飽きてきたんだが」

男が地の文での自分の表現方法に気付いたらしい。自らの存在を示す為の
行為を求めてくる。

「何のこと?」

男の隣に居た少女が不思議そうに訊いて来るがきっぱりと無視する。
作者もいい加減こんな書き方がいやだろうからさっさと自己紹介に入る
ことにする。

「じゃあまずこっちから。
折原浩平、花も恥じらう十六歳の美男子だ」
「折原原みさお、華も恥じらう十五歳の美少女でーす♪」
「俺は浩平で、こいつはみさおで呼んでくれ」

2人が簡潔に自己紹介を終える。花と華で2人の違いが出てるように
思う。てゆーか自分で美男子や美少女というか、普通?
ふざけているのだろうがそれでもいい性格してることは間違い無いな。
その思考はとりあ,えず頭の隅に追いやり俺も自己紹介を始める。

「俺は相沢祐一、こっちも祐一と呼んでくれ。
そしてこっちが殺村凶子だ」

真琴が自分の紹介をする暇を与えず即座に言葉を続ける。

「その名にふさわしく夜な夜な俺の命を付け狙い徘徊する妖怪変化だ。
見つけたら即退治してくれ」

注意事項も忘れない。

「なによそれはっ!! 真琴の紹介はちゃんとしなさいっ!!」

だがせっかくの俺の紹介に真琴、じゃなくて凶子が即座に抗議の声をあげる。

「だから真琴はそんな名前じゃない!!」
「ぬう、ひとの思考に抗議を加えるとは…さすがに俺と幾多の戦いを繰り
広げてないな。全部負けてるけど」
「声に出てたわよ!! それに負けてるって何よ。これまでは手加減して
あげてたんだからっ、覚えてなさい!!」

憤然と言いきる真琴だが何度も訊いたセリフだ、特に相手にしない。

「まあまあ、落ち着いて」

だが俺達のそんな様子を無視してみさおは俺達の間に割って入り、
真琴の手を握る。

「これからよろしくね真琴、わたしのことはみさおでいいからね!!」

そう言って真琴の手を握ったままぶんぶか振りながら笑顔で挨拶をする。
その勢いに真琴も何だか飲まれ気味に振られる手に合わせぶんぶか頷く。
わりとひとなつっこい性格らしい。これなら人見知りの激しい真琴でも
すぐに打ち解けられるかもしれない。



ともあれこれでこの水瀬家に新しい家族が出来た。
仲良く出来そうもある。
それでもこれからどうなるのかはわからない。






―――――――続く
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あとがき(多分?)


うーん、ギャグにしたかったんだがイマイチうまく書けてない。
今度はもっと笑えるやつを書けるよう努力します。
ちなみに次回は三人ほどまだ出てない人達を出そうと思ってます。
(しばらくはキャラ出しで話数かせげる(爆)
ではまた次回…

 

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