雪の街の愉快な奴ら
〜第三話 従姉妹で親友〜




みさおは『名雪』と、名雪もまた『みさお』と互いに呼び捨てにする。
名雪の方が一歳年上なのだが呼び捨てだ。
それはなぜだろうか?


初めて会い、そして親しくなったのがかなり小さい時だったからかもしれないし、
歳とかは全然考えないでいっしょに遊んでたせいだったかもしれない、また互いが
そんなことが気にならないほど仲がよかったせいかもしれない。

どれにしろ原因は小さい子供の頃にあったのだろう。

……そして何年かして年上への敬意などを知るようになって名雪が年上であること
からさんをつけたほうがいいか、とも考えた。

だが今更さん付けもなんだか変だと思って特に変えようとはしなかった。
名雪にも一応訊いてみたが

『じゃあ、なゆちゃん、って呼んで』

とか言われた。それは嫌だったから断ると

『じゃあ名雪で良いよ。今更さん付けされるのもなんか変な感じだし』

と言ってくれた。
大体考えることは一緒なんだなと思い今も呼び方は変えてない。
みさおにとって名雪は従姉であり、一番付き合いの古い親友であった。










「おーい、荷物届いたぞー」

みさおがそんな思い出に浸っていると玄関から祐一の声が聞こえてくる。
どうやら前もって送っておいた荷物が届いたらしい。




「うーん、結構あるね〜」

名雪が運び込まれた荷物を見てそうもらす。
確かにいらないものは置いてきたとはいえ、二人分、その量は多い。

「あれ、そういえばお兄ちゃんは?」

周りを見まわすが今ここにいるのはみさお、名雪、真琴、祐一だけだ。

「ああ、浩平なら『世界が俺を呼んでいる』とか言って外に出て行ったぞ。
昼飯食べた後すぐだったからもう二時間近く前じゃないか?」

祐一がそう言った瞬間

「しまったぁぁーーー!!」

みさおが頭を抱えて叫んだ。
「ど、どうしたの?」
「言葉通りだよ」

そんな彼女の反応に真琴が多少狼狽しながら訊くと名雪が困ったような表情を
して言葉を返す。

「イエスっ、その通りっ!」

随分困っているらしくみさおはかなりハイテンションに肯定する。

「わけわかんないわよ、それにイエスとそのとおりは意味一緒でしょ!!」
「真琴知らないの、英語の単語の後で同じ意味の日本語を持ってくるの
はその道の上級者が使う高等な言語なんだよ」

「え、そうなの?」
「いや、うそだから信じないよーに」

真琴はあっさり信じかけるがみさおはぱたぱたと手を振りながら即座に自分の
冗談を否定する。

「あぅー、騙された」

真琴が顔をゆがめるがみさおはきっぱりとそれを無視する。
このあたりは見事にに浩平の妹であることを感じさせてくれる。


「ま、それはおいといて。お兄ちゃんは逃げたんだろうね。
片づけするのめんどくさがって」
「それは・・・なんとも無責任だな」

さすがにこれには祐一も呆れ返る。

「じゃあこのままここに置いておこうよ。浩平が帰ってきたら自分で
やらせちゃえばいいじゃない」

真琴の提案はなかなか良いものだったがみさおはそういうわけにも
いかないと首を振る。

「せめて部屋に運ぶくらいはしておかないと」

みさおはよいしょっ、とダンボール箱を持ち上げる。
どうやら兄とは違いずいぶんしっかりとした性格に育ったらしい。

「私も手伝うよ」
「しょうがないから真琴も手伝ってあげる」

それに続き名雪、真琴も手伝いを宣言する。
そして真琴とみさおが二人で荷物を運び始める。


(じ〜っ)

一方名雪は視線、それも非難の色が混じったものを祐一に突き刺している。
祐一も負けじとそれを睨み返す。

それが一分ほど続きみさおと真琴が二つ目の荷物を運んでいったとき・・・



ピンポーン




来客を告げる音色が響いた。


とりあえず睨み合いを一時中断して祐一はドアを開ける。
ちなみに名雪はまだしつこく祐一に視線を突き刺してる。


「こんにちは」

ドアの外にいたのは美汐だった。


「おお天野、悪いな呼び出したりして」
「いえ、真琴のことですから気にしないで下さい」

その会話で名雪もようやく視線を突き刺すのを一時休止する。

「祐一、天野さんよんだの?」
「ああ、ちょっとな。ところで真琴は・・・」
「あ、美汐だ〜♪」

声を聞きつけたのだろう、祐一が何かを言い切るより先に嬉しそうに階段を
とたとたと真琴が駆け下りてくる。
それと同時に同じように二階にいたみさおも階段の上から顔を覗かせる。

「なになに? 真琴の友達?」
「そーよ真琴の親友よ!」

ひょこひょこと階段を降りてくるみさおに真琴が自慢気に答える。
そんな二人の様子を見て美汐は表情をほころばせる。

「けっこう大丈夫みたいですね」
「ああ、相手が良かったみたいだ」

祐一も美汐と同じような顔をして頷く。
美汐が今日ここへ来たのは祐一に頼まれてのことだった。

新しい住人相手に真琴が人見知りしないようにと祐一の配慮だったのだが
真琴とみさおの様子を見るとそんなものは必要は無かったとはっきりわかる。


「ま、それはそれとしてお前が来てくれたことは良かったよ」
「? なにかあったのですか?」

いきなりわけのわからぬ言葉をかけられて思わず美汐は首をかしげる。

「いやさすがに二人分の荷物は多くてな。
戦力が増えてたすかっ・・・」
「帰ります」

みなまで言われるまでもなく何をさせられるかを悟った美汐は即座にきびすを
返しドアノブに手をかける。

「えー、美汐帰っちゃうの?」

と、その時真琴の不満気、というよりも寂しげな声が響く。
当然美汐はその声に思わず足を止めてしまう。

そして美汐にとって不運なことに祐一はそれを見逃さなかった。


「真琴よ、美汐を責めちゃいけない。美汐にも何か用事があるんだ。
そう、せっかく会ったというのにすぐ帰ってしまうような用事が。
なあ美汐」

真剣な表情で語る祐一だった最後の「なあ美汐」の部分だけは口元に
薄い笑みがこぼれるのを隠すことはできなかった。

いやむしろ隠していなかったと言ったほうが正しかろう。
だがそれには真琴は気付かずに一心に美汐を見つめている。

「うぅ・・・」

そして彼女には祐一の意図がわかっていてもそれに抗することは
出来なかった。

「わかりました」

美汐は諦め、靴を脱いで玄関に上がる。

「祐一極悪だよ」
「まったく、祐一さんってば詐欺師だね」
「ふ、何とでも言え」

外野からの非難も当の祐一は馬耳東風と聞き流す。

「まあそれはもういいです。とりあえず自己紹介をしておきましょう。
私は天野美汐、今度高校一年になります」
「じゃぁ同い年だね。私は折原みさお、私も美汐って呼んでいーい?」
「かまいませんよ折原さん」

みさおはその言葉にちょっと不満気な表情を見せると

「苗字じゃなくてみさおで呼んで♪」

と満面の笑顔で言った。

「・・・・・はい、では改めてよろしくお願いしますね、みさおさん」

あまり人との触れ合いに慣れてない美汐は多少照れた様子を見せながらも
いつも通り丁寧に挨拶をし直す。


「うん、よろしくね美汐」

一方みさおは相手の静かな物腰とは対照的に元気良く答える。



ピンポーン





そんな中、再び来訪者を告げる音がした。

「相沢さん、他にも誰か呼んだのですか?」

タイミングがタイミングなので当然とも言える疑問を美汐は感じる。

「いや、呼んだのは天野だけだぞ」

だが祐一はそれを否定して首をかしげながらドアを開けてみると、そこには
両手に紙袋を抱えたあゆがいた。

「よおあゆか。どうしたまた転んだのか? それともまた誰かにぶつ
かったか?」
「うぐう、出会い頭にそういうこと言う?」
「いやだっておまえその顔」

祐一がそう言うとあゆは赤くなった顔を押さえながらうぐぅ。とうめく。

「まあとりあえずあがれ」

あゆは祐一の言葉に従い家に入ったところでみさおと目が合った。

「えっと、君が今日ここに引っ越してきた人?」
「はい。はじめまして、名雪の従姉妹で折原みさおです。
ここには昨日お兄ちゃんといっしょに越してきました」
「ボクは月宮あゆだよ。祐一君達の友達だよ」

特に何の変哲の無い自己紹介。
と、そこで祐一はふと妙なことに気がついた。

「おいみさお、何でお前こいつには敬語使ってんだ?」

そうみさおは今までの会話から見て同い年や年下に敬語を使う
タイプではない。
そしてあゆは(実際には年上だが)どう見てもみさおより年上には
見えないはずだ。
もしかしたら敬語の対象は年上というわけではないのかもしれない。



「え、だってあゆさんって私より年上じゃないんですか?」

だがさも当たり前のことでも言うようにあっさりとみさおは答える。
しかし祐一はそれを当たり前のこととして受け取れなかった。

「う、うそだっ!! こいつはどうみたって小学生の男の子だろう。
どこをどう見たら年上に見えるとい・・・うん・・だ・・・・・・」

彼は大げさに驚きを振りまきながらみさおの言葉を否定する。
だがそれは最後のほうでは尻すぼみに小さくなっていく。
原因はすぐ横にあった。

「ゆ う い ち くん。何が言いたいのかなぁ?」

あゆは笑顔だった。
だが目は笑っていない。

おかげでかなり怖い。
普段の愛らしい顔つきの造形は全く変わってない分余計に怖い。





「ごめんなさいぼくがわるかったですふつうにかわいらしい
おんなのこにみえます」

祐一がおとなしく謝るとあゆも怖い表情(笑顔)を消す。
一応謝られたので気が済んだのだろう。
もっとも年下に見えるということを否定されてないのには気が
ついていないようだが。

「でも年下とか年上とかはなんとなく分かるものなのに。
ねえ名雪?」
「うん、そうだよ。祐一が鈍すぎるだけだよ」

みさおと名雪によってさらにこき下ろされる。
あゆはやれやれといった風にため息をつくと両手の紙袋を祐一達に差し出す

「それはもういいよ。それよりたい焼きたくさん買ってきたんだ。
みんなで食べようよ」

「おお今回は大漁だな。だがあまり盗り過ぎると日の下を歩けなくなるぞ」
「うぐぅ、ちゃんと買って来たって言ったよ」
「ゆーいち、そういうこと言うんだったらいらないよね。
じゃ、真琴達だけで食べよっ!」

真琴はあゆの手から袋のひとつを取り楽しそうに祐一のほうを見る。
そして当然祐一の味方をするものは再び居らず・・・・



祐一は今日二度目の誠心誠意の謝罪を口にした。







休憩に入る。
ちなみに今秋子さんは買い物に出てるのでテーブルについているのは
六人である。
そしてみさおが袋から取り出した意外と暖かいたい焼きを山のごとく皿に置く。

「まだあったかいね」
「うん、冷めないうちにみんなで食べたかったから急いで来たんだよ。
おかげで途中で人にぶつかりそうになったよ」

あゆはてへへと笑いながらかわいらしく舌を出す。

「ほう、それでそのままぶつかっったわけだ」
「ううん、避けたんだけどその避けた先に木があって・・・・」

流石にその先は言いたくないのか言葉を濁す。

「さすがあゆあゆだ。ボケどころをきっちりとらえているな」
「うぐう、あゆあゆ言わないでよ」

そんないつもの会話をよそにみさおはたい焼きにかぶりつく。

「あ、おいしーねー」
「そうでしょう、ここの屋台はおいしいんだ」

みさおの言葉に触発されたかのようにあゆもまたたい焼きを口にする

「こしあんとつぶあん、両方あるよ」
「あたしは肉まんのほうがよかったなぁ」


そんな話に花を咲かせながらたい焼きは消費されていく。

そして山のようにあったたい焼きはすべて失くなり、お茶で喉を潤すと

「んじゃ私、先に行ってるね」


みさおはそう言うと一人キッチンから出る。






「うっし、後もう少し」

こんなあまり女の子らしくない言葉使いでみさおは残った荷物を見る。

みさおの荷物はすでに運び終えており残りは浩平の物だけだ。
だがそれももう半分にまで減っている。
そんな状況を見て満足しながら次の箱に手を伸ばそうとした時

「ただいま〜」

のんきな声をだしながら生来怠け者な非常識生命体が帰って来た。
そんな馬鹿をみさおは厳しい目で睨みつける。

「お帰りなさい、どちらまでいってらしたんですか?」

明らかな非難の色を混ぜた問い、それでいて表情は笑顔だ。
その怖さは先ほどのあゆと同質のものである。

「実は大怪我をしたときのために病院を探していたんだ」

玄関でいきなりのことにもかかわらずこんな態度を取れる浩平の根性は賞賛
に値するだろう。
だがそんなふざけた態度もみさおは介さずただ厳しい目を向け続ける。

「え〜と、だな・・・その・・」


これには浩平の生来の図太さでも耐え切れずなにか言い訳を探すように
視線をさまよわせる。



そこでキッチンから出てきた浩平とあゆの目が合った。

「あ、君は!?」
「お、おまえは!?」

同時に声が上がる。
双方ともについ先ほど会話したばかりだ。
おまけに互いの印象は強烈、その記憶はまだ薄れるはずも無い。
そしてみさお達が疑問に思う間を与えず浩平はその名を口にした。


「さばじゃないか!!」

体全部でばたんっ、という音を出してあゆはその場でこける。

「あれ? あじだったかな? それともふな?」

浩平は首をかしげながら記憶を掘り出そうとしてるがどれも違う。
ちなみにあゆはあじとかふなとか新しい名前が出されるたびに
倒れたままダメージを受けたように身を震わせ涙声でうぐうと泣く(鳴く?)

「冗談はさておき、確かあゆだったっけ?
どうしてこんなところにいるんだ?」

とりあえず愉快な反応に満足して本題に入る。

「祐一君たちの所に遊びに来たんだよ。
それより君のほうこそどうしてここに?」

「・・・・・お前、それを聞きたいか?」

あゆの当然とも言える疑問に浩平は突如その表情を変える。

「えっ!? ど、どういうこと?」

浩平の突然の豹変にあゆはおびえた声を出すが浩平はそんなあゆを見て暗い笑みを
浮かべ語り始める。


「実は俺はとある国の秘密組織の工作員として送られてきた。
すでにこの家は我らの支配下にある。
そして秘密ゆえにここまで知られてただで帰すわけにはいかない」


「うぐう、自分で勝手にしゃべったのに」

もっともな文句が返るが浩平はそんなものを気にする男ではない。

「秘密組織は言い訳などきかんのだ。
行け我が下僕その11、祐一よ。そいつを血祭りにあげるのだ」


完全にその気な口調で浩平は命令を下す。
そしてその命に従い祐一はあゆを血祭りにあげるべく立ち上がる・・・・





「って誰が下僕じゃいっ!?」

わけなかった。

「なにっ、祐一、貴様組織を裏切る気か!?」



「それはもういいっちゅうねんっ!!」






しつこい悪の秘密組織隊員(嘘)に祐一が力いっぱい突っ込む。
一方あゆは目を輝かせながら

「祐一君、組織を裏切ってまでボクを助けようとしてくれるんだね。
これってやっぱり・・・愛?」

なんてことを頬を赤らめながらのたまってる。

「お前も乗るなっ!!」
「愛じゃないの?」
「当然だ!」
「ちぇっ」

祐一の否定にあゆは残念そうに足元を蹴る仕草をする。

「愛を否定された少女。
そして追い詰められる少年、だが彼らは諦めない。活路を見出すべく・・・・・・」
「不自然にモノロ−グの真似しても状況は変わらないよ」

力強く語る兄をすっぱりと断ち切る。


「く、流石我が妹。俺と最も多くの戦いを経てきた猛者だけはあるな」

兄と妹が互いの意地を込めてにらみ合う。
ここで引けない、そんな思いが渦を巻きその場が膠着する。
そして彼らを見守る影が五つ。


「あの人がみさおさんのお兄さんなのですか?」

その影の一つ、美汐が浩平に目を向けながら名雪に尋ねる。

「そうだよ。ちなみにお父さんの弟さんの子なんだよ」
「あの、どういう人なんですか? いまいちつかめないんですけど……」

みさおと睨み合いをしている少年、なんとなく興味がわきたずねてみる。
それに名雪はしばし悩み

「えーとね、一言で言うなら……バカ、かなぁ?」

ほがらかにかなり酷い表現をする。

「そ、そぉですか……」

あまりといえばあまりな答え方に美汐は思わず後ずさってしまう。

「うん、そうだね、結構あってると思うよ。行動と考えが凄いんだもん」

あゆも名雪の隣でうんうんと頷いている。
どうもからかわれまくったのを根に持ってるらしい。その声は硬い。

そこで祐一は先ほど感じた疑問を取り戻す。

「そーいやなんであいつ知ってるんだ? 引っ越してきたの昨日の夕方だぞ」

あゆはうっ、とうなり、言いたくなさそうに言葉をつむぎ出す。

「・・・・さっき話したぶつかりそうになった人だよ」
「あいつがバカならお前はボケだな」
「うぐう」

即座に返された言葉を聞き、やっぱり言うんじゃなかったと後悔する。

そして浩平とみさおはまだにらみ合っている。
ちょうど一分にらみ合ったところで(玄関脇に時計があった)浩平が口を開く。

「おいしいアイスの店を見つけたんだが。バニラやミント、全二十三種類。
クレープもやってるぞ」

みさおの顔がその言葉にぴくんと動く。
実際には見つけたのではなく教えてもらったのだがこの際そんなことは重要ではない。

「クレープ二つ」
「多い、一つにしろ」
「結構多かったんだからね。アイス、ただしダブルで」
「ち、仕方無い。それで手を打とう」

浩平は負けたというように肩をすくめ首を振る。
と交渉が終わったのを見計らい真琴がにやつきながら浩平を見る。

「ねーねー、真琴達も手伝ったんだけど?」

言外に自分たちにもおごれと主張する。
浩平もその意を正確に読み取り即答する。

「やだ」
「あうー、なんでよぅ」
「お前らが手伝ったのはみさおだ。俺じゃない」
「あう〜、けち〜」

あうううう、とうなる真琴を美汐がなだめる。
真琴以外は特に何かを要求するつもりはないらしくただそれを見てるだけだ。


真琴はとりあえず落ち着いたがまだ不満らしくまだ浩平をにらんでいる。
そんな彼女をみながら美汐は時計を見る。
もうすぐ五時だ。

「それでは私はこの辺りでおいとまさせていただきます」

凝れ以上遅くなると家族が心配するので早々に帰ることを決める。

「あ、じゃあボクも帰るね」

あゆも同じことを思ったらしく美汐に続いて帰る準備をすと
名雪が残念そうな顔をする。

「もう帰るの? 二人とも夕飯食べてけばいいのに」
「ええ、でも明日の入学式の準備もありますから」
「うん、寝坊しないように早めに寝ないといけないしね」

美汐はいつもはあまり編かを見せない表情をはっきりと「楽しみにしてます」という
感情を表し、あゆはこちらも同様楽しみという感情を表情いっぱいに出している。
要するに二人とも楽しみなのだ、高校生になるのが。


「ん、意外だったか?」

一方祐一は浩平のわずかな顔を変化に気付き、面白そうにあゆを指差しながら問い掛ける。
当然ながら指差されたあゆはふくれるが浩平は首を振り

「いや、そっちはいいんだがこっちがな」

美汐の方を見る。
その落ち着いた雰囲気や言葉遣いなどが彼の年下というイメージとどうしても
合わないのだ。
年下は無邪気、または元気ではしゃぎまわる、というイメージが強いのだ。

「はっはっは、天野は物腰がおばさんくさいからなぁ」
「私の物腰は上品なんですよ」

自分の反論の根本からおばさんくさいと言われ多少むっとして言い返す。

「いや、悪い悪い」

笑いながらとりあえず謝ると美汐はふうとため息を一つつくとそれではまた明日、とだけ
言って玄関を出ていく。そしてあゆも同じ様に出ていった。

それを見届けると真琴も入学式の準備と言って自分の部屋に戻り浩平は残った荷物を
運ぶため祐一に手伝いを要求、断られるとドケチめ、とグチりながら二階へと荷物を運ぶ。


そして玄関にはみさおと名雪だけとなり、みさおもまた部屋に戻ろうとした時、
名雪から声がかけられた。

「みさお、訊かないんだね」

顔は笑いながら、でも少し暗い感じがする顔で名雪は隣に立つ少女に尋ねる

「ん? あゆさんが明日入学するってこと?」

考える間もなく名雪が何を訊いてるかを思いつく。
あゆが年上であることは知っている。
だが彼女は自分と同じ学年、入学式にでるのだから留年ではない。

会ったばかりの人間がなぜそうなのか、普通なら気になるだろう。
本人がいないのならなおさら訊きたくなるものだ。
だがみさおはそれをわかっていながら面白そうに答えを返す。


「名雪なら私がそれをどう思ってるかわかるでしょ?」

その言葉に名雪は一瞬虚を突かれた顔をするがすぐにその表情をみさおと同じ
嬉しそうなものへと変えていく。

「そんな人もいるでしょ、かな?」
「あったり〜♪」

一文字違えることなく当ててくれたことに嬉しく思いながら名雪の手を取る。

「世の中色々あるもんだよ。良い事も嫌な事も、だから名雪も何かあったら話してね。
きっと力になるから」
「うん、ありがとう」

自分より年下で、でもとても優しい親友のその言葉がとても嬉しくて思わず涙が
出そうになる。


そんな心境を読み取ったのかみさおは明るい声で別の話題へと話を変える。


「明日は私の入学式だね。電話で約束した通りちゃんと付き合ってよね。
寝坊していけませんでした、なんてなしだよ」
「あははっ、大丈夫だよ。真琴も行くんだから寝坊なんてしないよ」

そして名雪もみさおに感謝するように表情を満面の笑みに変えて応えた。







後書きです


すいません。遅れに遅れすぎました
新しいゲーム買ったので(二つも!!)パソコン向かったらずっとそっちやってて……
次はちゃんと早めに出すようにします。
読んでいる方々(少ないだろうけど)、見捨てないでこれからも読んでください。



ちなみにあゆは七年の昏睡から目覚めたので高校一年から、真琴は年齢不詳ですが
とりあえず高一から、んで栞も同じく高一からと言う事で。
試験とかは……目をつぶってください(汗


あと浩平達全員ひとり一部屋です。
二階に五部屋もあるなんて大きいと思うでしょうが知り合いが二階に五部屋ある家に
住んでるのでまあ良いかと思いそうしました。
広い心で許してください。


感想などなど

ああ…美しき兄妹愛(違

ともあれ元気だったらこうなんだろうかなあ?と想像を膨らませてくれる1本でした

部屋数に関してはなん部屋、と明言されてませんからまあ大丈夫でしょう…

感想その他はときなさんへメール、もしくはBBSなどにどうぞ。

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