(ん、もう朝か…)

 

窓から指しこんでくる光で俺は目が覚めた。

といってもいまだ頭は半覚醒状態、まともに思考など

出来るはずもなくただ自らの身体に寄り添っている柔ら

かいものを心地よく抱きしめた。

 

(はぁ〜、あったかい柔らかいいー匂い息がくすぐったい

……息?)

 

ふとそこに解せないものがあるのに気付くと俺は目の前

で自分が抱きかかえてるものを認識した。

 

 

 

 

「ま、舞ぃぃぃ!?」

 

 

 

 

とある朝からの一日デート

 

 

 

 

さすがに目の前にある舞の顔に寝ぼけ半分だった俺の脳も覚醒し

現状把握をしようと回転を開始する。

 

俺の名は相沢祐一、現在高校二年生水瀬家に居候中だ。

そいでもって目の前で寝てるのが川澄舞、俺の恋人で高校三年生、

といってもすでに受験を終え合格も発表されているので認識では

もう高校生ではないと言ってもいいだろう。(実際は卒業証書を貰

うまでは高校生なのだが実感がわかない)

 

「思い出した」

 

そこまで思考をまとめてようやくこの状況に至った経緯を思い出した。

昨日がその合格発表日だったのだ。舞は割と勉強が出来たらしく見事

合格。もちろん佐祐理さんも舞と同じ大学でやはり合格。

それで合格祝いということでその日のうちに三人で動物園へ行き、夕方

まで楽しんだ。

そしてその後俺は二人を学校へ行くように言って一度分かれたのだ。

そしてそのまま商店街へダッシュして目をつけていた和菓子屋(秋子

さん推薦の店)へ行き羊羹や団子を初めとした色々なお菓子を買って

学校へ持っていった。(もちろん緑茶も忘れないで)

学校ではどこで待ち合わせか言ってなかったのだが俺は当然のよう

に屋上への階段へと向かい二人はやはり当然のようにそこにいた。

そこで俺達は合格パーティの二次会を和菓子とお茶でやった。

もちろんこれは二人の合格祝いなので費用は全部俺持ちだ。

 

(出費は低くなかったが楽しかったのでまあよしだ)

 

問題はその後だった。

それが終わる頃には辺りはすでに暗くなっていた。

佐祐理さんは迎えが来たからいいのだが舞のほうは来るわけも無い。

というわけで当然のごとく俺が家まで送って行ったのだが……

きっかけは舞の一言だった。

 

「祐一、お腹すいてない?」

「ん? まあそりゃあまだ少しは」

 

先程色々買ったといったがそれでも三人で分ければ流石に一食分

には届かない。

 

「簡単なものなら出来るけど食べて行く?」

「ぜひっ!!

 

舞の問いかけからこの間わずか0.2秒、秋子さんに勝るスピードだった。

舞の手料理というのも興味があったのだがそれ以上にちょっと恥ずかし

そうに訊いてくる舞の様子にを見れば迷う事は無かった(爆

 

 

 

 

 

 

「ごちそーさん、うまかったぞ」

 

俺はそう言って箸を置いた。

舞の料理を食べるのは初めてだったがかなりおいしかった。

佐祐理さんのとはまた違った感じでそれがまたいい。

 

「………そう」

 

舞はそれだけ言うと何故か俺の方を見ながら赤くなっていた。

どうやら料理をほめられて恥ずかしがっているだけではないようだ。

 

「どした、舞?」

「……一人だと寂しい」

「はあ?」

 

俺の質問にまったく分けのわからない答えが帰ってくる。

だがその疑問は舞の次の言葉で解かれた。

 

「今日お母さん帰ってこない」

 

そこで納得した。よーするに

 

「一緒に居て欲しいんだな、舞は」

「……はちみつくまさん」

 

赤くなりながら舞は答える。

その様子に苦笑しながら俺は舞の頭をなでながら言う。

 

「言ったろ、いつも傍にいてやるって。だからお前が望むならいつでも

いてやる」

「(こくり)」

「んじゃ俺は家に電話してくるわ。電話借りるぞ」

 

舞が頷いたのを確認してから俺は秋子さんの了承を得る為電話へと

向かった。

 

 

 

 

『了承』

 

その一言のもと俺は今舞の部屋にいた。

別に下着を物色してるわけでもなけりゃ迷ってここに行き着いた

とかゆーオチでもない。

単に寝るからここにいるだけだ。(本当に寝るだけだ。他に何もしないぞ)

ちなみにこの部屋の主である舞は今押入れから布団を出している

真っ最中である。もうひとつ付け加えるなら俺は普段着(他に着るモン

なんて持ってきてないから)、舞はウサギがプリントされたピンクの

パジャマである。

はっきり言って無茶苦茶かわいい。

舞はこういうかわいらしいのが似合うんだな―、今度なんか買って

プレゼントしようとかおもっていると舞が声を掛けてきた。

 

「祐一、敷けた」

 

そして舞のほうを見るとちゃんと布団が床に敷かれていた。

一組だけ……

 

「じゃ、じゃあ寝るか」

「(こくり)」

 

俺がそう言うと舞も頷き布団の中に入り俺もそれに続き明かりを消して

同じ布団に潜り込む。

さすがに恥ずかしいのでお互い背を向け合っていたが。

 

「祐一」

 

どこか恥ずかしそうで消え入りそうな声、その声に俺は当然のように

答える。

 

「なんだ?」

「おやすみ」

「ああ、お休み」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎は全て解けた。

 

まあ謎で無いと言えばそーだろーけど。

抱き合っている状態なのはまあ俺と舞の寝相のたまものだろう。

 

偉いぞ俺、すばらしいぞ俺!!

 

この時俺は心底睡眠中の俺を褒め称えた。(後舞の寝相も)

 

「とゆーわけで俺はこの幸せを逃さぬためにももうちょっと寝とこう」

 

そー決めると昨晩の恥ずかしさは何処へやら舞をしっかりと、だが

優しく抱きしめると再び目を閉じ眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………朝?」

 

何かの音がしたような気がして川澄舞は目を覚ました。

 

(なんか暖かくて気持ちが良い………祐一?)

 

そこで舞もさきほどの祐一と同じく目の前に祐一がいる事に

気付く。そしてやはり同じように昨日のことを思い出す。

 

「祐一」

 

傍にいてくれた事に対する感謝を示すように今度は声を出して

自らの大好きな人の名を口にする。

そこで初めて自分の身体が祐一に抱きしめられている事に気付き

一瞬で顔を真っ赤にする。

 

「祐一」

 

寝起きで頭が鈍っていたのかもしれない、または祐一に抱きしめられて

いることで感情が高ぶっていたのかもしれない。何が理由かはわからない

がその時彼女は普段はまず取らないような行動を取ったのだ。

 

「ん……」

 

抱きしめられている為ほとんど動けない手を使わず、舞は首だけを動か

して目の前にある祐一の顔に口付けをしたのだ。

そして

 

「ただいま〜、舞。まだ寝てるの?」

 

部屋の扉が開け放たれそこから舞に似た二十代後半くらいに見える女性

が入って来た。

 

………時が止まった。

 

女性は目を見開き舞と祐一を凝視しして固まり、祐一は睡眠中、そして

舞は祐一にキスをしたままの状態で固まっていた。

そして先程の音はこの女性が玄関を開けた時の音だったのだと舞は初め

てここで気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「川澄芽衣よ。はじめまして」

「相沢祐一です、こちらこそはじめまして」

 

今俺は舞の母親である芽衣さんと真っ向から向かい合って座って

いる状態だ。

どうも俺と舞が一緒に寝てる状態のとこに芽衣さんが入って来たらし

く、ちょうどそのとき起きてた舞が俺を叩き起こしたのだ。

それ以外にもなんかあったみたいだが舞は恥ずかしそうにするだけで

全く教えてくれなかった。

まあなにがあったとしても今でも十分恥ずかしい状態なのだが。

 

「えーと芽衣さん?」

「まあとりあえず話はご飯食べながらにしましょう」

 

俺達の前ではおいしそうな朝食が湯気を立てている。

だがいくらおいしそうでもこの状況でばくばく食う気にはならなかった

のだが芽衣さん微笑みながらそう言われトーストに手を伸ばす。

ちなみに舞はよほど恥ずかしかったのかいまだに顔を赤くさせたまま

黙々と食べているだけだ。

芽衣さんはちょうど俺が一口目を飲み込んだのを見計らい口を開いた。

 

「で、祐一君は舞の恋人なのね」

「はい、そうです」

 

その質問に俺は間髪いれずに答える。

恥ずかしくないわけではだからいってここで言いよどむのは舞を幸せに

すると決めた俺の誓いに背くことからだ。

その俺の答えを聞いて舞が赤い顔をさらに赤くする。

 

「そう、それじゃこれからも舞をよろしくね」

 

そう満足したようににっこり微笑みながらそう言うと芽衣さんは再び

食事に戻った。

 

「えーとあの、それだけでしょうか?」

 

俺は意外とあっさりと終ってしまった事に戸惑いを感じながら思わず

訊き返してしまう。

 

「ええ、だって舞に恋人が出来たって事知ってたから」

「お母さん、知ってたの!?

 

そこで初めて舞が驚いたように口を挟んだ。どうやらこの様子だと

舞が話していたわけではなさそうだ。

 

「ええ、それはもう態度だけで」

「…(真っ赤)」

 

あっさりと返されてしまいまさに茹蛸のごとく舞は真っ赤になる。

そしてその後は特に会話もなく朝食を食べた。

 

「ところで祐一くん、今日暇?

 

朝食を食べ終わったところで芽衣さんが再び口を開いた。

 

「ええ、特に用事はありませんが」

 

ちなみに今日は日曜日(ご都合主義とか言わないで下さい)、学校

が無いので実際用事どころか暇過ぎるのが実情だ。

 

「じゃ、デートしない?」

「でぇぇっ!」

「おかあさんっ!?

 

芽衣さんの言葉に俺はイスから転げ落ち舞は珍しく大声をだした。

 

「舞と」

 

ずごごごっ

 

時間差で発せられた言葉に俺と舞は同時にこける。

そんな俺達を見て芽衣さんはおもしろそうにころころと笑う。

この人ある意味舞より子供っぽいかもしれない。

 

 

 

 

 

そして一時間後俺は待ち合わせ場所に来て舞を待っていた。

さすがに昨日の服のままではまずいので一度家に戻って着替えている。

ちなみに舞の家を出る際芽衣さんに「楽しみにしていて下さいね」と

言われたので多分芽衣さんが舞にお洒落な格好をさせるのだろうと予想

して内心かなり楽しみにしている。

普段でも十分かわいいのだが服装が違えばそれらの感じも違ってくる。

そういうわけで楽しみで思わず頬を緩ませているといきなり後から声が

掛けられた。

 

「祐一、お待たせ」

 

聞き間違えるはずも無いその声、俺は振りかえりその声の主を見て

絶句した。

俺の目に飛び込んできたのは確かに舞だったのだが彼女が着ている服は

長めの水色のスカートとそれに合わせるような紺色のブラウスを着ている。

普段着ている動きやすそうな服装とは違いゆったりとしたタイプだが

こちらの方が舞の静かな魅力と子供のようなかわいらしさを強調しており

よく似合っていると思う。そして普段はくくっている髪は佐祐理さん

のようにおろしておりリボンも佐祐理さんと同じ場所につけている。

だが一番の違いは顔だった。その顔は軽く化粧がなされていて特に薄く

塗られた口紅が舞の綺麗な肌とあいまっておりその姿に

 

「綺麗だな」

 

俺はその気持ちを思わず口に出していた。

 

「ありがとう」

 

小声で呟いたのだったがどうやら聞こえたらしく舞は頬を手に染める。

そんな姿がかわいくて俺は少し照れてしまい思わず舞の手を引く。

 

「祐一?」

「行くぞ、デートなんだからな」

 

俺は自分の顔が赤くなるのを感じながらぶっきらぼうに答えて舞の手を

引いて歩き出す。舞もそれに逆らわずに歩き出す。

 

 

 

そして一分後、俺はある事に気がついて道の真ん中だというにも関わ

らず足を止めた。

よく考えたら引っ越して二ヶ月ほどなのでここら辺のことはあまりよく

知らない。とゆーかそれ以前にデートなんてしたことねぇからたとえ

よく知っててもわかんねぇ。

勢いだけで歩き出したので何も考えてなかったことにちょっぴり後悔

した。

 

(動物園は昨日行った遊園地はその前に行ったばかりだし何か食うにも

時間は早いしゲーセンはせっかくおめかししてくれたのにそのんなとこに

連れていくのはなんかやだし…………)

 

「祐一、どうしたの?」

 

いきなり立ち止まったので妙に思った舞が俺に話し掛ける。

どー答えようかと悩んだがここは素直に答える事に決める。

 

「どこ行こーか考えてなかった、とゆーか思いつかん。

舞はどっかいきたいとこあるか?

 

情けない事だが舞に行き先を決めてもらう事にする。

 

「ぽんぽこたぬきさん、特に無い」

 

俺はこの答えに驚いた。舞なら動物園とか言うと思ったのだが。

 

「動物園は佐祐理も一緒じゃないとダメ」

 

俺の疑問を察したのかように舞は言葉を続けた。それで俺も納得する。

舞にとって動物園のようなところは。みんなで行き楽しむ所なのだ。

だから普段舞が行きたがっている所も今の俺と二人だけという状況では

違ってくる。

そこまで考え付いたところで俺の頭に一つの妙案が思いついた。

 

「んじゃ探検でもするか?」

「探検?」

「そう、行きたいところを探しに行くんだ」

 

行きたい場所を見つける為、デートの目的としては変な気がするが

なんとなく俺はこれが最高の名案に思えた。

舞を見るとその表情には微妙な変化が見えた。それで彼女もこの考え

を気に入ってくれたのだと俺にはわかった。

だから俺は迷う事なく手をひき

 

「行くぞ」

「はちみつくまさん」

 

俺達は再び歩き出した。

 

 

 

 

その後は楽しいものだった。

商店街を歩いていて見つけたペットショップ舞が釘付けになったり、

全く知らない店から良い匂いがしてきたのでそこで昼食を食べてみる

と非常においしくて喜んだりした。映画館であまり面白そうでもない

映画を犬が出てくるのとすいているという理由で見ることに決めて見

たのだが俺にとってはつまらなく、だが舞は熱心にそれを見ていた。

その間退屈だったかときかれればそうでもない。暗闇の中で一心に

映画を見ている舞の顔がスクリーンの光に照らされて非常に綺麗だった

からだ。そういうわけで映画館では舞は映画を見て、俺はそんな舞を

見て満足していた。

そんなふうに色々なところを見て回っている内に日も暮れてきた。

 

「今日は楽しかったな、舞」

「こういうのも嫌いじゃない」

 

俺達は見知らぬ公園のベンチで見知らぬ鯛焼き屋から買った鯛焼き

を食べていた。そして最後の一匹を食べ終わると俺は立ちあがり

舞に手を差し出す。

 

「またやろうな、今度は佐祐理さんも一緒に」

 

舞は俺の手をとって立ちあがる。

 

「はちみつくまさん…でも」

 

舞は俺から少し離れ、夕日を背にしてこちらに顔を向ける。

 

「祐一と二人だけなのもとても好き」

 

その顔はとても綺麗な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しょーもないおまけ

 

「ところで祐一」

「なんだ、舞?」

「帰り道覚えてる?」

「え゛」

 

その後どうにか知ってる場所に出たのは完全に日が落ちてさらに

しばらくしてからだった。

 

「今度はこんなことないようにしような」

「祐一マヌケ」

「お前もだろーが!!

 

おしまい

 

 

 

ザ・後書き

 

ときな「どーも作者のときなです」

佐祐理「あははー、今回出番のなかったので佐祐理がアシスタント

ですよー」

ときな「……もしかして根にもってる?」

佐祐理「そんなことありませんよー」

ときな「(ほっ)えーこの作品が随分前に書いた作者の処女作ですが

最初のやつに幾つか手を加えています。作者は舞が好きなのでその

一心で書きました」

佐祐理「ですがまだまだですねー、舞の良さの万分の一も書ききれ

ていません。所詮は未熟者、この程度だなんて恥を知るべきです」

ときな「ぐふぁっ(返事ができない。ただの屍になったようだ)」

佐祐理「はぇ〜未熟者の上に軟弱ですね。まあちょうどいいです

からこのへんでお開きです。さよならですー」

 

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