澪とドライブ 完結編

 

(1)

 …ドライブ当日。

 茜の拵えた弁当を持って澪の家に出かけようとしたときだった。

 トゥルルルルル…トゥルルルルル…

 忙しいときに限って電話はなるものと相場が決まっているらしいだ。
茜も出かける準備で忙しそうにしているので、必然的に俺が出ることになる。

『もしもし、里村さんのお宅ですか』

「…折原ですけど」

『えっ…間違えました…すみません』

 ガチャッ!

 電話の相手は、慌てて受話器を置いたらしい

 今、里村さんて言ったよな…茜に電話だったか。悪いことしたな。そんなことを思いながら三十秒ほど経過する。

『もしもし、”折原”さんのお宅ですか…』

 声の主はどうやら同じ相手らしい…。今度は相手の出方も慎重だ。

「そうだけど…茜に用事ですか」

『はい。あ、もしかして折原浩平さんですか』

 何で俺の名前を知っているんだ…。

『”姫川”と申します。お噂はかねがね…』

「茜が噂しているのか…そんなはずはないよな」

『いえ、詩子さんから…』

「…柚木か…」俺は、思わず溜息をついた。

『はい…楽しい方だそうですね』

 ”姫川”と名乗った受話器の向こうの女の子は、クスッと笑いながらそう言った。

「柚木ほどは楽しくないぞ…」 

『その”柚木”さんとも関係ある事なんですけど…』

「なんだ」

『今日は普段との違いには要注意ですよ』

「意味深なことを言うなあ…」

『予知能力です』

 かなり、ユーモアがあるらしい。

『冗談ですよ。でも、本当に未来を予知できたら便利なんですけどね』

「やっぱり意味深なことを言うな…」 

 そう言うと相手の当初の電話の用件を思い出した俺は、

「茜に用事だったな…。携帯にかければよかったのに」

『いえ、折原さんとも話してみたかったんですよ』

「そいつは光栄だな」

『とりあえず、今日、何があっても茜さんを裏切らないようにして下さい』

「わかった」

 …そして

『それじゃ…、茜さんと替わっていただけますか』

 俺は、忙しそうに出かける準備をしている茜を呼び止めた

「茜、姫川って子から電話だぞ」

 

(2)

 澪の家はいつ見ても圧倒される。

 何度かみんなで訪れたことがあるが、その佇まいには未だに慣れない。

 一般の建て売り住宅…の中でも、高級住宅のカテゴリーに入るものだろうな…。

 文化祭の帰りに演劇部OGの深山さんに案内されながら酔っぱらった澪を運んだり…、
そう言えば、この世界に還ってきてから最初のクリスマスには澪の家でクリスマス会をやったんだったな。

 由起子さんの家や長森の家、そして茜の実家なんかは普通の建て売り住宅って言う感じだからな。
別に見窄らしいっていう訳じゃないんだけどここの家と比べると一寸ばかりこじんまりしているな。

 …大体、インターホンにカメラは付いていない。

 

 インターホンをならすと、

「あ! 折原さんですね。澪が待っているのでどうぞ入ってきて下さい」

 と言い終わる前に、玄関が開いた。開けたのは待ちきれなかった澪だった。

 …とてとてとて、カツッ!

  サンダル履きで勢い良く走ってきて転けた澪。起きあがる手を貸してやると

『…痛いの…』

 涙目になりながらスケッチブックの書き込みを見せた。

「慌てて走って来るからだ」

『浩平が来たから嬉しかったの』

 …なんだかなぁ…俺みたいなヤツがひとり来たところで、対して面白くはないだろうに…

「あらあら、澪、大丈夫?」

 慌てて駆け寄ってくる澪の母親。

「折原さん、いつもすみませんね…」

「いえいえ、慣れてるから大丈夫ですよ」

 そう言えば、出会ったときも転けていたな…。危なっかしくて見ていられない。
まあ、そこが良いところと言えばそうなんだけど…出来ればもう少し注意ぐらいはしてもらいたいところだな。 

 

「あら、今日は皆さんは一緒ではないのですか」

「いろいろありまして…」

『そろそろ、行くの〜』

 気が付くと、澪はサンダルから靴に履き替えていた。準備は万端と言ったところか。

「行ってらっしゃい。折原さんにご迷惑かけちゃダメですよ」

『大丈夫なの』と大きく一ページ。

 それを見せながら二言、三言手話で話す。

「それじゃ澪をよろしくお願いしますね」

「…わかりました」

「今日はお赤飯にしなくちゃ♪」

 いつも妙に乗りがいいお母さんだ。…ってお赤飯…

 …ますます前途多難だった…。

 

(3)

「きいた、茜。澪ちゃん家は今日はお赤飯だそうよ」 

 妙に乗り気な柚木さんを余所に

「…本当にやる気ですか詩子」

 と、里村さんが言った。

「ここまで来たら、やるしかないでしょ」

 柚木さんはやる気満々だった。

「詩子は悪趣味です」

「確かに…そうだよね…上月さんのバッグに盗聴器仕掛けるなんて…」

「あれは、澪ちゃん同意の元でやってるから別に問題はないわよ」

「それが問題なんです。澪も、なんだかやる気満々だったし…」

 里村さんは心底困っているような複雑な顔。

「それじゃ茜は、折原君が澪ちゃんとくっついちゃうって思っている訳ね」

「そんなことしたら、浩平を許しません」

「…ていうか、あたしが許さないわよ。茜と同棲までしといてそれじゃ…」

「…詩子…それを言う資格はないと思います」

「えっ…どうして」

「こんな非道いことを始めたのは詩子ですから。それに…」

「それに?」 

「…何でもないです」

 そう言って里村さんは言葉を濁した。

 

『ブロロロロロ…』 

 受信機のスピーカーからエンジン音が響いた。どうやら、上月さんと浩平の乗った車が発進したらしい。

「始まったわよ」

「…」

 ガレージから、一台の車が出発するのが見える。

「じ、ジムニー…何で…」

 思ってもいなかったジムニーの出現に驚いてしまった。

「澪のうちの小さい方の車です」

「あれは良い車よね、四駆と二駆を切り替えられるしね」

 里村さんも、柚木さんも別段驚いた風でもなかった。
見慣れているからなのか…と言うより、里村さんが驚いているところってあんまり見かけたことがないし…。

「でも、アレって…マニュアル車だよ」

「澪の家には、あれの他にはランドローバーしか有りませんから…」

 …上月さんのお家って、相当お金持ちなのかも…家の外観も大きいし。

「ランドローバーとは、通よね。瑞佳さんもそうおもうよね」

「…まあ…そうだよね」

「…詩子、出遅れますよ」

 里村さんは冷静だった。

「そうね、ではこちらも行きましょうか」

 キーを回す。

「あっ、そうそう瑞佳さん。七瀬さん達に連絡お願いね」

 そう言うとカルクアクセルをふかし、私たちの乗るファミリアを発進させた。

 

(4) 

 上月家を出発してから澪の様子を垣間見ると、肩に力が入りすぎでガチガチだった。

「なあ、澪…」

 …返事はなかった。と言うより、この状況で返事されたら確実に事故るから止めて欲しい。
そう言えばさっき、車庫から出すときにもろにエンストしていた。ガクンッ!
と振動が来てエンジンが停止する。ギアを入れ間違えたらしい。…本当にペーパードライバーだったのか。

 見てるこっちは気が気じゃないな。

 …と俺が考えている間にも、澪が何かを話したいと言うようにこちらを伺う。

「まて、澪…前を見ろ。前を!」

 車間距離が縮まりかける。

 慌てて、アクセルから足を離す。

 本当に大丈夫なのか…。

 

……

………

 一応大事には至らず、一時間経過…

 

…そわそわそわ…

 妙にそわそわしている澪。

「どうした、澪」

 俺が声をかけると何かを訴え書けるように俺の方をチラリと見た。

「まさか…トイレか」

 うんうん!

 どうやら当たりらしい

「仕方がない、ガソリンスタンドかコンビニに止めろ」

 うんうん!! 

 とはいえそんなに都合良く…

…あった!

 それは大手チェーンコンビニ「ロリコン」の看板。

「あそこに止めるんだ、良いか慌てるなよ」

…うんうん!

 必死の形相で、「ロリコン」の駐車スペースに駐車すると、一目散に店内に走っていった。
十五分近く待っていると、すっきりした顔の澪が帰ってきた。

『お待たせなの』

「そんなには待ってないけどな」 

 これくらいは勘定の内だしな。

 しかし…次ぎに書かれた言葉が澪にしては明らかに異質だった。

『…イッてきたの』 

「そうか、イッてきたのか…って、字が違うぞ」

『これでいいの…』

 と、恥ずかしそうに答える。 

 …うーん「イッてきた澪」って言うのも、何となくそそる気がする。
 少なくとも「逝ってきた」よりはマシか。…って、違う!
 …澪はこんな事を言うヤツではないはずだ…。 

 しかし、それは、始まったばかりだった。

 

(5)

「始まったわ」

 ニヤりと今までにない邪悪な表情をする詩子。

「…イッてきたって…」

 長森さんが苦笑する。

「わたしだってそんなこと浩平に言ったことないよ…」

「言葉の攻撃しかも、あの子の場合文字でダイレクトだから強力よね」

「…詩子、鬼畜です」

 いつも、いたずら好きな詩子だけど今回は、少し悪戯の度が過ぎるような気がする。

「まだまだ序の口」

 今日の詩子は完全に制御不能だった。

 

 私たちの乗る車の前方の視界にジムニーが入ってきた。

「じゃ、またそろそろ行くわよ」

 

(6)―1 

 一体、さっきのは何の冗談だったんだろう。

 俺は、気を取り直すと澪に「発進には気を付けろよ」といった。

うんうん!(大丈夫)

 頷きながらガッツポーズ。

 だからそれが危ないんだって…。

 今度は、エンストすることもなくスムーズに発進。何とか車の流れに乗れた。
目的地の中央公園に付くまでそれこそ無難にこなしていた。

 

『それじゃお弁当にするの〜♪』

梅林の中でお弁当を広げると、茜特製の、巻き寿司、稲荷寿司の豪華詰め合わせが現れた。

「おっ、こりゃ凄いな」

『おいしそうなの』

 基本の河童巻き、干瓢巻き…太巻きは、二種類。一つは伊達巻きで巻いてあった。茜のやつ偉い気合いの入れようだな。そして、最後に、具沢山の三角稲荷。味付けはちゃんと関西風。稲荷の皮の油揚げも自分でしっかり煮込んだ通泣かせの味だ。

「こりゃ上手いぞ」

カキカキ『浩平あ〜んなの』

 さっきから、しきりと澪が俺に奨めてくる。勿論自分も食べてはいるようなのだが…
箸で口に運んでこられると…妹分の澪とはいえ、結構恥ずかしいぞこれは…。
さっきから周りの視線がこちらに集中している。

 

(6)―2

「作戦は第二段階に入ったようね」

オペラグラスで、浩平達の方を見ているのは柚木さん。

「…覗きは悪趣味です」

 呆れて溜息をつく里村さんを余所にお弁当のお寿司を摘みながら凝視していた。

 わたしも、もう柚木さんに付いていけないのでお弁当に目に専念することにした。
あっ美味しい。たしか、里村さん手製だっていってたっけ…

「里村さん、これ美味しい。こんど作り方教えて」

「いいですよ。お料理するのは楽しいですから」

…里村さんてこんな人だったんだ。高校時代は今以上に無口だったから、
もっとつき合いづらいの人かと思っていたよ。浩平が彼女を好きになるのも分かる気がした。

 そうこうしていると、「あっ、いたいた」とライダースーツの二人組登場。

「七瀬さん、広瀬さんお久しぶり!」

「長森さんお久しぶり…ってもうお弁当始めちゃってる〜」

「そりゃそうでしょ、留美。お昼なんだから…」

 七瀬さんと広瀬さんは良いコンビだ。高校時代、一時期、広瀬さんが七瀬さん苛めてたみたいだったけど…

 いつの間にか親友になっていたんだから、分からないよ…。

「あたしたちも作ってきたよ」

「…って留美あんたねぇ…、ほとんどあたしが作ってたでしょ」

「広瀬…それは言わないでよ…」

「…しかたないわねぇ、でもあんたも少しは見栄張るの止めなさいって。今度こそホントに嫌われるわよ」

…と言いながら彼女達の持ってきたお弁当は開かれた。

「…洋風ですね」

 唐揚げ、サンドイッチ、ミニトマト、卵焼き…定番のおかず達が色鮮やかに並んでいる。目移りして、仕方がないよ。

「あっ、長森さんと里村さんも遠慮なく食べてね」

「七瀬さんと、広瀬さんもどうぞ」

「あっ美味しい! やっぱり、これが乙女のなせる技なのね…」

「留美、これも美味しいわよ」

「お二人の作ったお弁当も美味しいです」

「あっうれしい」

 などと、やっていると

「うん、これも美味しいわ」

 と柚木さんが割り込んでくる。

「ねぇ…七瀬さんと広瀬さん…」

「なに?」ほぼ二人同時に、答えた。

「お弁当が終わってから細かい打ち合わせねー」

 柚木さんは、そう言うと七瀬さん達の持ってきたお弁当に手を着け始めた。

 …本気でやる気みたいだ…

 

(7)

 弁当の片づけが終えてしばらく一休み。俺の耳元で、微かな寝息が聞こえる。

「…余程、疲れたのか」

 隣には、澪が俺にもたれ掛かってすやすや眠っていた。従って俺は、動くに動けない訳だが…、たまには悪くないかも知れない。芝生の上に、そっと澪を横たえると、自分もまた横になった。

 梅の花が健気に咲いている。鶯でもいれば風流なんだが、鶯はどちらかというと竹藪にいるらしいから一寸難しいな。 

 たまには、こんな日曜日があっても良いかも知れない。なんだか、妹と一緒にいるみたいに感じる。…みさお…が生きていたらこんな風だったかもな。心地良い春風を感じながらふと、目を閉じると自然に睡魔が襲ってくる。まぁ、昼寝も悪くないな。そう思いながら意識は微睡みの中に落ちていった。

 

…。

……。 

………。

 ゆさゆさゆさ!

 誰かが俺を揺さぶっている。揺さぶると言えば…

「ながもりぃ〜、あと三尺だけ寝かせてくれぇ〜」

 ゆさゆさゆさ…

 今日の長森はしぶとかった。いや、これは茜か…

「…茜…頼む。あと三年だけ眠らせてくれ…」 

  ゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさ…

 今日の茜はさらにしぶとかった。しかも、切り返しがない…

 ん?何かおかしい…ていうか、肌寒い。

 堪らず、瞼を開く。

「…ん?」

 澪がいた…

 そうか…思い出した、澪とドライブに来たんだっけ…。

『風邪引くの…』とスケッチブックの文字。

 心配そうに澪が覗き込んでいた。

「そうだな、春先とはいえ、夕方には冷えるか…」

 俺の上に澪の上着が掛けられていた。

「寒くないのか」

ふるふるふる…

 首を横に降りながらも震えている。やっぱり寒いらしい。

 俺は何も言わずに澪に上着を返すと、

「そろそろいくか」荷物を掴んで澪に言った。

 うんうんと頷くと、後をついてくる。

 車について後部に荷物を押し込むと

「俺が、運転して帰ろうか」

 と俺が言うと 

『最後まで運転するの』

 字に妙に気合いが入った返事。任せてみるか、まあ、熊や鹿が飛び出してくるわけじゃないだろうし…。それに、行きもほぼ安全運転だったことを考えれば、まあ、大丈夫だな。そう思ってハンドルを任せる。途中、中型バイクが二台通り過ぎていった。まあ、今時珍しくもないか…。

 しばらく無事に走行し、また、トイレにでも行きたくなったのか、おもむろにコンビニエンスストアの駐車スペースに滑り込む。そそくさと、運転席を降りると、辺りをキョロキョロ見回して…そこにいたライダースーツの二人組に近づいていく。

 そういやさっきバイクが追い抜いていったよな…。澪は二人組のバイク乗りと何か愉しそうに話しいる、っていうか、澪は書いているんだけどな。二人組の顔は丁度後ろ向きで見えない。何事か用件を終えたらしく、二人組のライダー達はフルフェイスのヘルメットを被りそそくさとバイクで走り去った。そして澪も店内に消える。

  そして、コンビニから戻ってきた澪は何事もなかったように、車を出した。

  きわめて順調。

 慣れてきたせいも有るんだろうけど…恐ろしいほど快調な運転だな…

 アクシデントもなかった事もあり、俺は少し油断していた。

 そう、仕掛けはすぐそこにあった…

 

 澪は、徐に停車する。そして…

『御休憩なの…』

と顔を赤らめながらスケッチブックを見せた。

「おい!? まて…ここが何か知っているのか」

『…知ってるの』と書き込んでスケッチブックで顔を隠した。

 目の前の建物は…、いわゆるラブホ(死語)と言う奴だ。
茜とは二、三度来たことがあるが、まさか澪と来ることになろうとは…。

「…本気か」

『…普通は女の子にそんなことは訊かないの』

…返ってきた答えはどこぞのマニュアル通りの答えだ

 スケッチブックの文字はさらに小さくなっていた。顔はもう真っ赤に紅潮している。

 …大体、澪は自分からこんな事を言う奴じゃないはずだ…。まあ、茜だって自分からは入ろうなんて言ったりはしないが…。

 俺は澪がそう言ったことに対して何かの疑問を感じた。いや、それより身の危険を感じたという方が正しいかも知れない。

 …そう言えば、朝の電話の姫川って女の子。『今日一日、何があっても茜さんを裏切らないようにして下さいね』がそう忠告してくれたっけ。もしかしてこれのことか…。

 考えてみれば、今日は澪の様子が何か変だった。

 朝のコンビニでの言動と言い、お昼の弁当と言い…まるで、裏で誰かが糸を引いているような…そんな気がした。

 …よく考えてみよう

 何故、俺は澪と二人でドライブをしているのか…

 本当は、皆でわいわいドライブしているはずが、茜と柚木のドタキャンに始まり…長森、七瀬…と気の乗らない返事が続く。

…すでにはめられていたと言うことか…。

 不審なことと言えば、さっきのコンビニでのバイクの二人組…。

…バイクか…

 そう言えば、七瀬が『最近、腰の調子も良くなってきたから中型免許取ったのよ』って言ってたぞ…

 少なくとも、七瀬は何か知っている…

 俺は、ポケットから携帯電話を取り出すと、七瀬の携帯に掛ける。

 

『はい、七瀬です』

「七瀬…か」

『あっ、折原』

 心なしか、声が上擦っている。

「…七瀬、何か隠してないか」

『え?!』

 もはや間違いない。七瀬も一枚絡んでいる。

「…澪に何を吹き込んだ」

『あ、あたしと広瀬は柚木さんに…』

 意外とあっさり吐いたな…

「わかった。…で、柚木は今どこにいる」

『…あんたたちの後ろのファミリアだけど…』

 結末は案外あっけなかった…

 後ろを振り向くと軽くバッシングしてくるファミリアが一台…。

「はぁ〜…」 

 俺は溜息を一つつくと、車から降り助手席のドアを、バンッ!と乱暴に閉めてファミリアに近づいた…。

 

(8)

 小坂家居間。

 あらかじめ、何もかもが用意周到に準備されていた。

 由起子さんはというと例によって準備だけすまし、

「それじゃ、茜ちゃん瑞佳ちゃんあとはよろしくね」

 そう言って、全てをわたしたちに託すとそそくさと仕事に出かけてしまった。

 相変わらず忙しい人だよ。

「…で、今日は何のつもりだ、柚木」

「自分で忘れてどうするのよ」

「へ?」

 浩平は、完全に忘れているようだった。

「明日は浩平の誕生日です」

「浩平おめでとう」

『おめでとうなの』

「折原おめでとう」

 皆それぞれ、浩平の嗜好を凝らしたプレゼントを手渡した。

 そして、パーティーもたけなわになったとき、浩平は柚木さんに詰め寄った。

「ところで…今日のドライブは一体どういうつもりだ」

「あ、あれ? ね。あれは…あたしからのプレゼント」

 柚木さんはいつも通りしれッとかわす。

「おいマテ…俺じゃなかったら洒落にならなかったぞ」

「…わっわたしは止めたんだよ…」

「私もです。でも澪が乗り気でした…」

「…茜でも柚木の暴走を止められなかったのか」

「詩子は誰にも止められません」

「…ひどい言いようね」

「里村さん…」

 わたしは、苦笑しながら柚木さん里村さんを交互に見る。

「それじゃ、俺が本気で澪の誘いに乗っていたら茜はどうするつもりだったんだ」

「…そうですね、そのときは…」

 

…そして、里村さんは静かに言った…

 

「…その時は。浩平、あなたを殺します…」

 

 〜劇終〜


 

七瀬「あんまり活躍の場がなかったじゃない」

広瀬「そうね。まっ、仕方がないんじゃないの作者は茜萌えだし…」

…そそくさと逃げ出そうとする作者。

茜「作者が逃亡します」

詩子「逃がさないわよ(面白いから)」

作者「は、話せば分かるう…(犬飼元首相風に)」

 

…合掌…( ̄人 ̄)

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