深夜の夜行列車。

それに乗って、彼・・・相沢祐一は この町を離れた。

しばしの休息のため、そして自分自身を見つめ直すために・・・

 

〜クラムボン〜

第一話

 

 

俺の目の前で多くの『奇跡』が起こった。

そして全ては上手く行った。

 

だが現在・・・

 

「祐一、イチゴサンデーだよ!」

「うぐぅ、タイヤキ」

「あぅー、肉まん」

「アイスクリームです」

「牛丼・・・」

「奢ってくれるわよね、相沢くん」

「これで奢らなくては人として不出来でしょう」

「あははー、期待してますよー、祐一さん」

 

こいつらは何かあると、すぐ俺に奢らせようとする。

しかも断わろうとすると

 

「「うー(うぐぅ)、祐一(くん)今日の晩御飯 全部 紅しょうがだよ!」」

「祐一・・・(スチャッ)」

「覚悟はいいかしら、相沢くん(チャキッ)」

 

名雪とあゆは晩飯で

舞は捨てたはずの剣で

香里はメリケンサックで、それぞれ脅してくる。

お陰で80万近くあった貯金はカラになり、部屋からは家具が消えた。

 

隠してはいるが、頭に白髪も出ている。

そして昨日、原因不明の腹痛で病院に行くと胃癌寸前の胃潰瘍だと言われた。

原因はストレス、それに胃自体に過度の負担が掛かったからだという。

ストレスは言うまでもなく、過度の負担の原因は殺人級の量の弁当だろう。

 

この診断を受けて、さすがの俺も決意した。

「この町を出ていく!」と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名雪達が寝静まった頃、俺は荷物を整え部屋から出た。

細心の注意を払い玄関を目指す。

 

「祐一さん、ちょっと待って下さい」

 

後ろから秋子さんに呼び止められる。

起きてたのか・・・

 

「・・・なんですか、秋子さん」

 

自分でも冷たさを感じる口調で返事をする。

 

「これを」

 

秋子さんが茶色い封筒を差し出す。

受け取って中を見ると、100万近い札束が入っていた。

 

「祐一さんへの餞別です、あの子達に奢った分も含まれています」

「秋子さん・・・」

 

嬉しかった、俺の事を本当に心配してくれていたことに。

 

「こんなになるまで気が付けなくて・・・本当にごめんなさい」

「気付いてたんですね、俺の身体のこと」

「はい、ですから・・・」

 

一旦言葉を切り、まっすぐに見つめてくる。

 

「どこに行くのかは敢えて聞きません、あの子達の事ですから 祐一さんがいなくなれば真っ先に私に居場所をを訊くはずです、ですから私も知らない方が良いでしょう」

「そうですね、一応部屋に置手紙があるので、読んだ後テーブルの上に置いといてください」

「分かりました、あと私に出来ることはないですか?」

「特にありません、何時も通りに振舞っていてくれれば十分です」

「そうですか、では祐一さん、旅先でも身体に気を付けてくださいね」

「はい、じゃあ行って来ます」

 

秋子さんに見送られ、俺は旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今にいたる。

 

何時の間にか寝ていたようで、車掌に起こされる。

すでに目的地の駅に到着していた。

無人駅らしく明かりは蛍光灯だけで、中は少々薄暗い。

ホームに降り立ち、荷物をベンチに置いて伸びをする。

電車が駅を離れ、前方に海がひろがる。

波の音と、潮の香りを全身で感じている。

 

「ん〜・・この感じ、一昨年来た時と全然変わってないな」

 

そんな事を言いつつ荷物を持ち、駅をあとにした。

 

 

こうして、祐一はこの海辺の町に降り立った。

町の名は『伊佐戸(いさど)』

北の町と同じく、地図に載っていない奇妙な町である。

 

あとがき

 

思いつくに任せて書いた今作。

祐一の性格が違うような気が・・・(汗)

舞台はAIRの町ではなく、私のオリジナル。

一応、次あたり妹キャラを登場させる予定。

書くかどうかは未定。

感想その他はメールにて。

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